









歴史民俗資料学研究会は、歴史民俗資料学に関心を持つ者の相互の協力を図り、研究発表、情報交換等の場を提供することを通じて、歴史民俗資料学に関する研究の推進、発展に寄与することを目的として設立されました。有志が2021年に始めた資料研究会が前身となります。日本で初めての資料学研究科として、神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科が1993年に設立されましたが、その設立に尽力した歴史家の網野善彦は「資料学を学問として確立することは、学問全体の発展のために必須の条件」だと主張していました(「資料学をめぐる若干の問題」『歴史民俗資料学研究』創刊号、1996年)。本研究会はその視点や課題意識などを共有するものです。
資料学確立が求められている背景には、高度経済成長期以降の資料の消滅や散逸、遺跡等の破壊を伴う大きな社会的変化がありました。貴重な資料の消滅という事態に対応し、いわゆる学際的研究が進展し、資料学・史料学の確立ももめられたのです。現在もまた、インターネットの普及やデジタル化への急激な移行などが急速に進み、技術革新による新しい環境も資料に影響を与えています。その点では、消滅や散逸、破壊などという資料を取り巻く課題は現在進行形でもあり、資料学はますます重要性を増しているといっていいでしょう。
このような状況を踏まえ、当研究会はとくに歴史民俗資料学の課題に真摯に向き合い、会員相互の交流を通した情報交換、互いの切磋琢磨の場、さらには情報発信の場であることを目指しています。第一の課題は、人間社会の歩みの中で残されてきた資料、特に歴史民俗資料そのものについての研究を深め、その特質を明らかにし資料批判の方法を確立することです。この基礎作業によって、諸学の協力や総合の前提を提示することです。第二の課題は多様な資料を活用した歴史、社会像を示すことです。この二つの課題は、基礎と応用と言い換えてもいいでしょう。
日本常民文化研究所の前身・アチッチクミューゼアムを創設した渋沢敬三は、早くから資料の重要性を指摘していました。敬三のよく知られた「論文を書くのではない、資料を学界に提供するのである」という言葉のもととなった『豆州内浦漁民史料』(1937-39年刊)、各種の博物館構想、民具などの物資料の収集、絵図資料の活用などは、その具体的な展開でもあります。資料学の模索と展開には、歴史と蓄積があるということです。このような歴史と模索に学び、継承することも本研究会の重要な役割でもあると考えています。
埋もれていた資料を見出して提示することや他分野との学問的交流、一般社会への情報提供や貢献などの活動もまた本会の目指すところでもあります。そして、本会の対象や活動は、「日本」に限定されるものではありません。現代的な国の枠組みのとらわれず、広く資料学の問題意識や課題を考え、向き合う者の集う場でもあります。その点にもまた、本会の意義があると考えています。
このような本会に対し、先学諸氏のご理解と御賛同、御協力を賜わりたいと思います。
発起人会・2023年10月